結愛ちゃん事件から7年。私が区議を目指すきっかけともなった大変痛ましい事件でした。
私も一人の母親である区民として、目黒区議会あてに目黒区児童虐待防止条例の制定を求め提出した陳情に関しては2019年のブログ
結愛ちゃんの一周忌に思う事 https://aishirakawa.tokyo/blog/4330に詳細は記載しております。
そして区議としてこれまでの6年間注視してきた目黒区の児童虐待の未然防止、早期発見・早期対応を着実に実現するための取り組みとその変容を記録としてまとめておこうと思います。
【時系列の経過】
平成 28 年の児童福祉法改正により、特別区に児童相談所を設置することが可能となり、目黒区においても平成 29 年度に副区長を委員長とし、関係部課長で構成する「児童相談所開設準備検討委員会」が設置され児童相談所開設に当たり想定される人材、施設整備、経費等について検討が進められてきた。
平成30年3月2日 目黒区で5歳の船戸結愛ちゃんが児童虐待死事件が起こった。後に厚生労働省の専門委員会が検証報告書を取りまとめ児相や関係機関の対応に問題があったことが指摘され、国会に児童虐待防止法の改正案が提出されるなど、児童の安全確認のための強制的な立入調査、保護者に対する児童の面会の制限など虐待を受けた子どもを救うために行政の役割が強化されるきっかけとなった事件でした。
令和3年 7 月には「区立児童相談所設置に向けた基本的な考え方」が策定され、児童相談所の設置により、身近な地域で子育て支援から児童虐待対応まで切れ目のない子ども家庭相談行政を実現することを目指すことが確認された。
令和4年12 月には、「総合的な子ども家庭支援体制の構築と環境整備について」が決定し、令和13 年度を目途に区内に児相を含む総合支援拠点を整備することが確認され、児相の整備地を碑文谷保健センター跡地、こども総合相談センター(仮称)の整備地を第三ひもんや保育園跡地とした。
令和6年10 月に品川区が区立児相を開設したことに伴い、現在目黒区と大田区の2区を管轄している東京都品川児童相談所から令和7年度4月以降は目黒区と渋谷区を管轄区とする、「東京都児童相談センター」に所管が移管されることが都から区に伝えられた。
■独自路線からサテライト型への変遷
また、児相の開設に向けて、区の子ども家庭相談行政に望ましい組織や施設のあり方など、区立児童相談所の設置について引き続き検討する中で、基本的な考え方に沿って、子育て世代包括支援センターと子ども家庭支援センターの連携・協力体制の強化を図る(総合的な子ども家庭支援体制の構築)、と東京都児童相談所との連携強化や人材育成を目的とするサテライトオフィスを早期に設置する方向で東京都と協議を行い設置場所の選定など準備が進められてきた。その結果、鷹番保育園跡にこども家庭センターを設置し、その施設内に都児相サテライトオフィスを誘致すること、児童虐待を含む総合的な子ども家庭支援体制に向けた取り組を具体的に進めていくこととなった。
■東京都主導の児相体制へ
東京都とは、令和5年度から都児相サテライトオフィスの誘致に向けた協議がスタートしていたが、都との協議を続けていく中で、都からは、目黒区と都の更なる連携強化を進めるため、目黒区内に都立児相を整備することも選択肢の一つとの提案があった。
人材確保で課題を抱えていた目黒区にとって東京都からの提案は渡りに船だったはずだ。
その後、目黒区は区立児相の整備に固執せず、区は基礎自治体として、子ども家庭支援センターを中心とした虐待予防、妊娠期から青年期までの切れ目のない支援体制を充実していくことが重要であると変節し、区内に都立児相を早期に誘致することが望ましいいとの結論を導き出した。
青木区長は都立児相の誘致に向けて9月4日付けで都に要望書を提出した。
区の要望書提出を受け、都からは9月18 日付けで
・目黒区内に令和13 年度までの都立児相設置に向けた具体的検討を進める。
・目黒区に設置する都立児相の管轄区域は渋谷区を含めた2区とする方向で検討。
・児童相談所サテライトオフィスを活用した連携の強化方策についても検討。
との回答が得られた。
【目黒区の児童相談所を巡る課題】
■相談件数の増加
背景として、虐待に関する相談件数の増加があげられる。
令和2年度に、品川児童相談所で受理した目黒区分の相談件数は580 件であり、増加傾向にあった。虐待に関する相談も414 件と、相談受理件数全体のうちで大きな割合を占め、虐待に関する相談件数の推移を見ると、10 年間で約6 倍に増加していたことがわかる。
区では児童相談所等での経験を持つ経験者採用も活用するなどして、子ども家庭支援センターの職員数(児童相談所等への派遣職員を含む)を計画的に増員し、確保が困難な職種・職責に関しては、任期付採用の活用などの選択肢も含めて、早期から確保策を講じ人材確保を行うとしていたが、ある時点から目黒区の区立児相設置に向けた採用がストップしていることを知る。また区議会最大会派の質問に対する答弁などからも区は区立児相の設置に消極的だという印象を持った。
■人材確保と予算措置の課題
仮に児童相談所が区に設置された場合、児童相談所(一時保護所含む)業務以外にも、児童福祉法等の規定により、児童相談所設置区事務の遂行が必要となり、これらの事務については、児童相談所を開設した日から確実に遂行することが必要となるため、目黒区でこれらの事務に必要とされる職員数26 人程度の確保にも区は苦慮していたと思われる。
一時保護となった子ども一人ひとりの経緯を踏まえて適切な支援が確保できる職員配置に膨大な事務と人材育成にも確保にも大きな課題を抱えていた目黒区であった。
■都立児相誘致後の課題
都は、緊急かつより高度な専門的対応、広域的な調整を担い、区は住民に身近な自治体として、虐待の予防・早期発見を担いながら、相互に連携構築を図ることが子どもと家庭への適切な支援につながっていく。というごもっともな考えで都と区は一致し、最終的に都児相を区内に誘致することで決着をみたが、当初目黒区立の児童相談所を設置することで得られるとしていたメリット、例えば地域に根差したサービスから一時保護などの法的措置の権限までを区が持つことになり、全ての相談に区が主体となって対応することになるという点について都児相の誘致により引き続き権限の分散による区の主体性の弱体化など懸念点が残る。また、これまで都児相と区との間で支援の一貫性について課題があると認識していた点、例えば、リスク度に合わせて対応機関がその都度変わることで、子どもや保護者との安定的関係を構築することが難しかったり、対応機関任せになったりすることにより、一貫した支援とならず、必要な支援に結び付かないことがある点についてもどのようにして解決していくのか具体的な方策は出てきていない。
そのような中で私が一番不安に思っているのが子どもの権利擁護の点です。
目黒区はこども条例を23区でも比較的早期に制定し子どもの権利擁護に真摯に取り組んできたという点を私は高く評価をしてきた。
目黒区立児相を設置することで併設される一時保護所の運営方針としてでもこれまで目黒区は、外出、通信、面会、行動等の制限については、一時保護の目的が達成できる範囲で必要最小限とします。併せて、教育機関と連携して通学や通園を保障するなど、子どもの利益に反しないように教育を受ける権利を最大限保障する方策を検討します。としている。
また、子どもの意見表明権を確保するため、入所している子どもの話に十分に耳を傾けることができるよう余裕を持って職員を配置し、子どもの意見表明を支援するための研修を実施するなどの体制整備に努めるとともに、子どもの意見を聞き取るアドボケイト制度や第三者評価などの子どもの権利擁護のあり方も検討していくとしていた。
しかしながら一時保護所の管轄もこれまで通り東京都児童相談所が担うことになると、これまで私たちが視察などを通じて感じてきた都立児相の一時保護所に対する違和感までも踏襲することになるのではないかと危惧する。
【おわりに ~子どものための児相を願う~】
私はことさらに目黒区行政を批判しようとは思っていないが、児相の設置準備を担う担当課課長のこれまでの議会答弁を聞いていても、これだけ大きな事業(目黒区立児童相談所の設置)を担う所管課の担当者としてそのリーダーシップや調整、人材確保や育成などを果たして遂行できるだけのパワーや調整力があるのかという点では私は検討段階からかなりの不安を抱いてきた。
また目黒区は専門人材の確保に乗り出すタイミングも近隣区や他区に比べて極めて初動が遅かった点も懸念材料だと考えていた。
この時点で目黒区が区立児相を単独で設置することは現実的に限りなく不可能な状況だったのだと推察する。
人材育成の課題は今に始まったことではない、庁内ではゼロから新規事業を立ち上げ、事業を回していけるだけの人材が果たしてどれだけいるであろうか?区の事業は新規事業だけではなく今後も継続して行わなくてはいけない既存事業に加え、掌握事務が雪だるま式に増え続けている。新たなことを始める以前の問題として業務の棚卸や事業を整理することが極めて苦手な目黒区行政にとってリソース不足は今後も区の機動力を削ぐ大きな要因になるだろうと私は考えている。
このような体制の中では結果的に都立児相を目黒区内に誘致することが今の目黒区にとっては最善策だったと考える他ない。
とはいえ、区議として任期が続く限り区内に設置される都立児童相談所及び一時保護所についても自由を守る会所属の都議とも情報共有や連携を一段と強化し、目黒区らしさを失わないような運営になるよう今後も目を光らせていく所存です。
都内三か所の東京都児童相談所を視察させて頂いての過去ブログもご参照下さい。
https://aishirakawa.tokyo/blog/4694
自由を守る会代表上田令子都議のブログ
http://blog.livedoor.jp/edomam/archives/52473450.html