打つ⼿なし?厳しい⺠泊規制の影で増える⼾建てホテル(旅館)

⽬⿊区は他の区に⽐べて⺠泊を条例で厳しく規制している

目黒区では住宅宿泊事業に起因する事象による生活環境の悪化を防止することを目的として目黒区住宅宿泊事業(民泊)の適正な運営の確保に関する条例を定めている。

この条例により、目黒区内の全域において、日曜日の午後 0 時から金曜日の午前 12 時までの週 5 日間は、住宅宿泊事業を実施できない。 また目黒区内では民泊営業は年間で 104日間の営業日数に制限されている。

この条例がある目黒区では他の自治体に比べ民泊事業は収益化が難しく、民泊物件数は少ない傾向にあると考えられる。

条例でいくら規制しても規制緩和された旅館業法の許可基準さえ満たせば⼀般住宅と⾒分けがつかない⼾建てホテル(旅館)は住宅地でも営業可能

しかし実際には、大手民泊検索サイトにも「目黒区の一軒家」 、 「まるまる貸切の一戸建て」などと称して、一泊数万円~数十万円単位で数多く区内の戸建ての宿泊施設が掲載されている。

戸建の宿泊施設は連泊での条件を課す等、ホテル等に比べ滞在日数や滞在人数が多いなどの特徴も見られる。

目黒区内のここ 5 年間の旅館・ホテルと住宅宿泊事業(民泊)数の推移

コロナ禍で一旦は減少に転じたが旅館・ホテルの件数は民泊に比べ増加傾向にある。

どんな営業形態のホテルなのか?区は把握せず

目黒区では旅館業法上には、旅館・ホテル営業と簡易宿泊所営業・下宿営業の分類しかされていないためという理由で戸建てのホテル(旅館)なのか、マンションの一室での宿泊施設営業なのかという、営業規模や営業形態による把握はしていない。 (あくまでも国の法律に準じた集計のみ)←これも自治体の実態把握が進まない一要素になっている。

このように、条例により目黒区内では民泊営業を年間 104 日間までと制限しても、旅館業法により一見、普通の戸建住宅と見分けがつかないかたちで、365 日、昼夜を問わず多くの宿泊者が利用するような宿泊施設が一般住宅と隣あって稼働している現状がある。

私、白川が区民の方から相談をされたケースは YouTube をご覧ください。

旅館業法では住宅系地域でもホテル・旅館はできる!
(一般的な土地利用のイメージと実際の用途地域の制限が噛み合っていないのでは?)

目黒区でも当然ながら第一種、第二種の低層住居専用地域では旅館業は営業が許可されないが、準工業や商業、近隣商業などの用途地域に限らず、第一種住宅地域や第二種住宅地域の住宅系地域でも旅館業の営業許可は得られる。

ある日突然、知らないうちに隣の家がホテル(戸建て旅館)になっていた!!

平成30年に規制緩和された国の法律(旅館業法)に従っているだけでは基礎自治体は良好な住環境を守れない時代になってきている

①気が付けば隣の家は旅館になっていた!
目黒区の民泊条例では民泊営業開始の15日前までに、 周辺住民への周知義務を定める規則があるのに、 国の旅館業法では旅館やホテルを営業する時に周辺住民への周知を義務づけていない。← 今後、目黒区では義務付けの方向で検討すると明言。

② 建物入り口が私道にしか面していなくても旅館やホテルは営業許可される!
旅館業法の許可手続きの項目の中に、マンション等の一室で旅館業を営もうとする時用に書かれた一文がある。建物に規約が無い場合は、マンション等建物の管理組合に当該建物で旅館業を営むことを禁止する意思がないことを確認したことを証する書類の提出を求めるというものだ。しかし、戸建ての場合は全面道路が私道にしか面していなくとも、 その私道の持ち分所有者全員から当該建物において旅館業を営む事を禁止する意思が無い事を確認するための、証明書類の提出までは求められていはいない。

③隣の⼾建てホテルの宿泊者が朝まで私道に無断駐⾞。迷惑だが誰も取り締まれない!
私道は道路交通法上の道路には該当しないため路上駐車は道路交通法違反として警察が駐車禁止を取り締まる事ができない。
自動車の保管場所の確保等に関する法律というものがあるが、実際のところ一晩ぐらいの路上駐車では警察は動いてくれない。特に私道の先が行き止まりになっているような場所では緊急対応は望めない。
「私道上の駐車については、原則私道所有者の方々で解決して下さい。」というのが目黒区のスタンス。

④戸建てホテル(旅館)ではフロントも、従業員の常駐も必要なし!!
騒音問題や隣家への宿泊者の迷い込みなど、 ホテル(旅館)の経営者 (運営者) に対応をお願いしようにもホテルにはフロントも無ければ従業員も常駐していない。

旅館業法では客室の鍵の適切な受け渡しおよび宿泊者等の出入りの確認を可能とする設備が求められているが、 玄関帳場 (フロント) に代替えする機能として、 ビデオカメラの設置
(宿泊者の出入りが確認できる) ICT 機器 (スマートロック) 、テレビ電話やタブレット(宿泊者の顔や名簿への記載が確認できる) を有する設備を備えていれば玄関帳場 (フロント)を設置しなくても良いとされている。

他の区では、国の法律がそうであったとしても、 区の基準を設け、 玄関帳場の設置と従業員の常駐を求めている区もあるが、目黒区では国の法律以下でも以上でもない運用をしているため人が常駐していなくとも営業は可能。おおよそ10分程度で緊急時に現地対応が可能な場所に委託事業者など含め従業員が常駐させしていれば旅館営業は可能なのだ。

⑤⼾建ホテルの宿泊客が勝⼿に壊れたスーツケースをゴミ集積場に置いていってしまった。これって誰が処分費⽤を払うの?!
旅館として営業している戸建から近くのゴミ集積場に壊れたスーツケースが粗大ごみではなく一般のごみとして排出されていた。この件について区の対応を質問したところ「宿泊施設から出されたものと特定することができないので、警告シールを貼って回収せずに取り残す。」とのことだ。結局のところ事業者に対して宿泊施設から出されるゴミは一般家庭ごみではなく全て事業ごみとして排出するように指導したところで、事業者はそれを守っていても、宿泊者が勝手に捨ててしまったゴミまでは誰も責任が負えないのである。

この件は個別に目黒区の清掃事務所に相談をして後日回収をしてもらったが、何日間もゴミ集積所に壊れたスーツケースが放置されている様は近隣住民にとっても好ましい光景とは言い難い。

まとめ
今回、区民からの相談がきっかけとなって一般質問で一般住宅と見分けがつかない戸建てで住宅で合法的 (旅館業法により) に365日昼夜を問わず営業されている戸建て旅館について様々質問を行った。

(国の法律は全国一律なので、空き家問題などで課題を抱える地域では、旅館業法の規制緩和は地域にとっての起爆剤になったかも知れない。それは否定しない。でも一部の都市部ではこの国の規制緩和は必ずしももろ手を挙げて喜ぶことでもなかったようにも思える。だからこそ地域をわかっている基礎自治体のきめ細かい対応が求められているのではないだろうか。)

打つ手なし
目黒区の答弁は、国の法律や規則に則って全て適切に対応しているということを改めて説明するような内容に終始していた。 私には、 このような現状に対して打つ手なしと聞こえた。

これは氷山の一角に過ぎず(時を同じくして他の委員からも同様の質疑があったことから困っている区民は 1 件や2件だけではないかも知れない)今後、旅館営業の開始を周辺住民に周知することを義務化するという区長の答弁は 1 歩前進したことに変わりないが、周知されたところで開業そのものを周辺住民が止めることはできない。

用途地域と実態の乖離
目黒区で住宅系の用途地域を選んでお住いの方は、静かな住環境を求めて戸建を選択しているし、 駅前商業地のマンション等を選んで住まわれる方は、 静かな住環境より高い利便性を重視している傾向があると思う。

それぞれの家族構成やライフスタイルにあった場所を選んでいるのだ。その様な違いからか近隣にあるべき施設に対しても考え方が幾分違う様に感じられる。この違いは当然ながらホテルなどの商業施設が近隣で稼働することに対しての理解度や許容度にも差が出てくるだろう。

戸建旅館の問題は旅館業法だけの問題ではなく、 需要はあるのに受け皿がない問題や、 目黒区では商業、宿泊、オフィス、住宅のミックスバランスの問題もあるように思える。

近年、 商店街から商店が消え、準工地域から工場が消え集客施設に変貌するなど、目黒区では現在の用途地域について実態との乖離が見受けられる地域もあるように感じる。あるべき場所にあるべき施設が誘導できていない問題は民間にだけ任せておいて解決するのだろうか。中目黒等の主要駅前商業地にもファミリー層や富裕層の来訪客を受け入れられるような設備を備えたホテルはなく、近年再開発などの様々な計画が区内の主要駅前を中心に動いているが、 結局のところ大型のホテルが建設できる主要駅前の商業地ですら、できるのはタワーマンションばかりである。

建てては売って、直ぐに資金を回収しなければならない民間企業の収益構造の問題もあるだろうが、 目黒区として民間主導で進められる計画に対して、 町全体を構成していくうえで、商業、宿泊、オフィス、住宅のミックスバランスをどう図っていくつもりなのだろうか?

区長に聞いても用途地域は都の管轄。 政策誘導=用途地域と考えているだけで、 良好な住環境を守るために町にメリハリをどうつけていくのか?こういった用途地域と実態との乖離についてどう考えているのかは全く伝わっては来なかった。

今は、まだ二桁台の旅館・ホテルの営業件数に収まっているが、いまのうちにこの傾向が続いて件数が増えた場合の将来的なコミュニティへの影響や定住率にどう影響が出て来るのかの調査研究ぐらいは早めに始めておくことをお勧めしたい。まだ取り返しがつくうちに備えておくことが肝要である。

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