愛知県美術館・ギャラリーのリニューアル及び文化芸術活動の推進について視察報告書

令和6年10月16日~18日の日程で行政視察、私の担当は愛知県名古屋市
愛知県美術館 。視察を受け入れて下さった愛知県美術館 館長 、企画業務課 の皆様、貴重なお話をありがとうございました。また美術館のバックヤードの見学もさせて頂きたいへん学びの多い視察となりました。

愛知芸術文化センターは愛知県美術館、愛知県芸術劇場、愛知県文化情報センター、愛知県図書館からなる複合施設である。

1952年 サンフランシスコ講和条約記念事業の一環として、県議会が愛知県文化会館建設を議決。

1955年 愛知県文化会館美術館開館。(当初は作品を収集するミュージアムではなく展示会場を提供するためのギャラリーとしてスタート。しかし藤井達吉コレクションの大量受贈により作品取集も行っていた。)

名古屋国立近代美術館(仮称)に関する基本構想があったのが1977年頃
1989年の愛知県新文化会館(仮称)ニュースの中で国立美術館を名古屋に誘致する運動があった事が記載されている。当時の名古屋ではオリンピックの開催を目指す動きもありオリンピック関連施設として国立美術館誘致への動きがあったようだ。しかし10年近くが経過しても実現の見込みが立たず懇談会も解散。その頃から新文化会館の計画が持ち上がり、現在の愛知文化芸術センターとして実現に至った。

1991年 愛知芸術文化センターの名称決定。
1992年 愛知県美術館の前身である愛知県文化会館美術館を閉館
愛知文化会館は1992年10月に閉館し、愛知芸術文化センターに引き継がれた。

2013 年から愛知県図書館の施設管理業務は指定管理者制度により運営。
2014 年から芸術劇場と文化情報センターには指定管理者制度により運営。
2017 年 11 月 改修工事実施のため休館。
2018 年 11 月 愛知県美術館ギャラリー(8 階)をリニューアルオープン。
2019 年 4 月 愛知県美術館(10 階)をリニューアルオープン。

2024 年 7 月 1 日現在の職員数は 70 名、再任用 3 名、非常勤 36 名で構成
職種の構成は事務 54 名、技術 16 名
愛知県美術館では企画保管庫・修復室が設けられており、保存の専門学芸員が配置されている。

美術館では収集活動の財源として昭和 63 年に愛知県美術品等取得基金が設置され、県からの積立金の他、民間からの寄付金も多く含まれ、作品の寄贈の受け入れに積極的に取り組んでいる。

2007 年以降は 3 年間で 9,000 万円の執行枠の中で作品購入を進めているが、愛知県もまた予算不足であり 9 千件弱のコレクションの大半が寄贈品と寄付金を受けての購入等となっている。
これは愛知県美術館に限った問題ではないと思うが我が国全体の問題として文化行政への予算割り当てが極めて少ないということもあろうかと思う。

所蔵作品 8899 件の内、1477 件が藤井達吉コレクション(寄贈品)
3309 件が木村定三コレクション(寄贈品)である。
この中には、与謝蕪村(富嶽列松図 18 世紀後半)、浦上玉堂(山紅於染図 19 世紀初期) の重要文化財指定品も含まれている。
2023 年年度にはブラックとキャリントンの絵画、共に評価額 5 億円を受贈した。

美術館開館収集方針として、
20 世紀の優れた国内外の作品及び 20 世紀の美術動向を理解する上で役立つ作品
現在を刻印するにふさわしい作品
愛知県としての位置をふまえた特色あるコレクションを形成する作品
上記の作品・作家を理解する上で役立つ資料の 4 点を掲げているが、寄贈品を積極的に受け入れるということは清濁併せ呑むということであり、広範な時代と地域にわたる作品が収蔵されることになり収集方針との乖離や収蔵庫の確保と現場ではご苦労されている様子が伺えた。また寄付金を受けての美術品購入の際には条件が付く場合も多く好きなものは買い集められないという現状が垣間見えた。

小中学生の企画展観覧料については 2004 年度以降は原則無料(共催者がいる場合には協議の上)コレクション展については 1994 年度から無料としている。

愛知県美術館では美術館の基本的な使命である美術作品の収集、展示、保存、調査・研究、教育・普及を土台としながらも、リニューアルを機により創造的で多様性に富む社会の実現に寄与すべく、INTERMEDIATION 国際性と地域性、ACCESSIBILITY 発信と共有、DIVERSITY 多様性と独自性、CREATIVENESS 自由と創造性の4つの視点を重視した活動を展開していくこととしている。 

企画展の開催、所蔵作品(コレクション)展、作品の収集保存、調査研究、教育普及活動、ギャラリーの運営に加えて、2014年から愛知芸術文化センターの一部門である愛知県文化情報センターの映像事業が、愛知県美術館に移管され、オリジナル映像作品の制作や、上映会を通じて映像表現事業にも取り組んでいる。

目黒区でも現在目黒区美術館や公園、下目黒小学校を一体的な範囲として建替えることや、公民連携によって事業全体を進めていくこと、周辺施設を集約することなどに加え、導入する機能や周辺地域のまちづくりの方向性についての基本構想がまとめられ公開されていることから、今回の視察では既にリニューアルを経た経験からの知見を参考にさせて頂きたくいくつか私の方からも質問をさせて頂いた。 

① 美術館のリニューアル工事中の所蔵品の保管や運搬などに関して。 
愛知県美術館ではリニューアル中は他の場所に保管庫、収蔵庫等は借りずセンターで順次リニューアルしていく方法を取った。そのため大規模改修に際して常にセンターのいずれかの施設が長期で閉館している状態が続いていた。コンサートホールなどは騒音の問題から使用できなくなっていた。複合施設であるが故の課題もあった。改修工事は複合施設は難易度が高い。運搬に要する費用もだが、作業日も限られる。現代アートが多様化しているからこそ収納しにくい作品も多くなってきている。 

② 美術館の建物、建築物に対する現場としての所感 
建築物にコストをかければかけるほどランニングコストも増大していく。 
素材に良い物を使うという事はそれだけ改修にもお金がかかるということ。 
有名建築家が美術館を設計する場合もあるが、建築として良いもの、建築をメルクマールにするとランニングコストがかかる。
愛知県美術館の場合空調費がとてもかかる。
美術館面積が広いと警備など人件費かかる。
30年が経過し寄贈品を受け入れているという背景もあり収蔵庫のキャパには限界があり収蔵品が入り切らなくなってきているという問題が浮上してきているが、役所からだったら処分したらいいと言われるが倫理的にはできない。海外などでは作品を売却する例も見られるが頂いたものを売れるのか?という倫理的な問題がる。昔は契約書などもなく寄贈を受け入れていた、いつか将来的に寄贈品を売却する可能性があるという前提で遺族や寄贈者本人が納得して美術館に大事なコレクションを寄贈するとは考え難い。また、そのような交渉や契約を専門外である学芸員が行う事は困難である。

③ 複合施設ならではの連携について
他の文化施設との連携についてはメリットだけではない。 
連携するなら必然性が必要 。劇場と美術館で同じことをやるとなると、お互いが専門性が強すぎるのでコラボは難易度が高い。 

④ 目黒区美術館について 
目黒区美術館はこれまでもワークショップなど普及活動で高い評価を得ている。美術品の価値を高めるためにも普及活動が得意な目黒区ならではのやり方で将来的にもリピーターを増やせるように目黒区だからできることをやった方がいいというアドバイスを頂きました。 
美術館は区民だけがターゲットではない。インバウンドの需要もある、県外からの来場者もターゲットにしていかなければならず、美術館はギャラリーとは違って住民だけに目を向けているわけにはいかない。 
目黒区美術館もとても良いコレクションを持っているので他の美術館に貸し出すことができるという事はまたそれだけ良い作品を借りることもできるということ。 (目黒区美術館では日本の近現代美術の流れとその特徴を理解するための優れた作品を体系的に収集、欧米とのかかわりの中での独自の展開に焦点をあてています。) 

⑤ 美術館経営についての諸課題と今後について 
愛知県美術館は2026年に独立行政法人化を検討している。 
自治体では大阪のみで県立では初の試みになるだろう。 
経営という面ではR5利用率 85.3%で右肩下がり 
ギャラリーの利用率は二科展など高齢化の問題もある。 
団体の担い手不足が利用率低下の原因となっていると考えられる。 
若手は規制の団体には属さない時代になってもいる。 
大学卒業展覧会なども大学内のギャラリーでやりたいなど会場の選定も多様化してきている中で、具体的にはギャラリーの利用方法や利用団体、貸方の見直し(1週間単位の利用から半分の期間で貸すと等も搬出入の課題はあるが考えている)、値上げなども検討している。 
その一方で公立ギャラリーとしての役目や文化貢献の使命があるので、黒字にはならなくとも企画展や展覧会などは行っていく。 

1992年に開館し施設設備全般の老朽化に伴い2016年から約3年にわたり大規模な改修工事を実施したコンサートホールや美術館、アートスペースを有する愛知県の複合施設の視察を終えて今後建替え、複合化がはかられていく予定下にある本区においても新施設が建設された後も大規模修繕は計画的に行われていくことは避けられない。本区の場合は文化施設に居住施設や学校、公園なども一帯として併設される予定のため、その工事の影響や工程の複雑さなどからコスト増やスケジューリングなど今後も将来にわたって課題は継続していくものと考えられる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA